Case Studies事例

田中産業株式会社

愛媛県今治市の老舗タオルメーカー田中産業株式会社さまと、ダイアログ・イン・ザ・ダークのアテンドが共同開発した『ダイアログ・イン・ザ・ダーク・タオル』。2008年の発売以来、リピーターや口コミ、大切な方へのプレゼントなど多くの方々に愛されています。共同開発のきっかけや商品づくりにかける想い、そして商品誕生までの道のりを代表取締役社長の田中様に伺いました。

 アテンド(視覚障害者)の鋭い感覚を商品開発に活かしたい

Q. ダイアログとの出会いを教えてください
2007年にさかのぼります。ある知り合いのプランナーに勧められ、ダイアログを体験することになりました。体験前の私は、視覚障害者(以下、アテンド)の方が暗闇を案内していることやその意味なども全く知らず、暗闇の中で発想を変えたり、自己研鑽をするイベントなのだろうとそんな漠然とした認識でした。

しかし、実際に暗闇に入ってみると今まで経験のしたことのない世界に驚きました。徐々に自分の感覚が研ぎ澄まされていくことが実感でき、まさしく見えていないものが見えてくる、そんな感覚を今でもはっきり覚えています。
例えば「人」、初対面の方々なのに、誰が隣にいるかなど、だんだんとそこにいる人たちが見えているようにわかってくる。さらに風の吹いている方向や匂い、温度の変化など普段感じているはずなのに、その感覚にシャッターをおろしていた自分にも気づきましたね。

また、アテンドたちと話をしてその生活に驚きました。まず、一人で通勤していること。非常に繊細なアンテナを張り巡らせ、我々とは全く異なる世界観で生活しているのだろうと思いました。点字に関しても我々は視覚で点字をとらえ、形を知った上で触っている。しかし見えない状態では点字がどこにあるかさえわからないですし、触ってもそれを図案化などできません。アテンドの方々の感性の鋭さを初めて知った瞬間でもありました。



Q. 商品開発のきっかけは?
当社は昭和7年に創業し、私で4代目になるタオルメーカーです。これまで色々な国でもお仕事をさせていただきましたが、日本人ほどタオルが好きな国民はいません。そして肌触りに敏感な国民も。にもかかわらず、日本ではタオルは昔から贈答品とされ、あまり自分で買わないんですよね。

しかし時代が変わり、自分のためにタオルを買う人たちが増えてきたのです。また同時にネット化が急激に進み、ECの販売チャネルも主流に。
そうなると、いかにして商品の良さを触らずにお客様に伝えるか、が課題になります。
当時直面していたのは、品質試験では色落ち、速乾性などは数値化できますが、気持ち良さ、肌触りは数値化できません。それをなんとか数値化できないかと研究機関とも相談をしながら試行錯誤したのですが、人の感覚は数値化することができず、諦めていたところだったんです。

紹介してくださったプランナーの方は、私が体験する前からこの可能性を知っていたのでしょう。すぐに、ダイアログをタオルづくりに活かさないかとアドバイスをいただきました。

肌触りや気持ちよさを追求する商品としては、主婦100人をモニターしても良いのかもしれません。しかし、私ですら徐々に感じることができた感覚の敏感さを、日常でもっと鋭く持ち合わせたアテンドの方々に、モニターになってもらったら数値化するよりも信憑性の高い、素晴らしい商品がつくれるのではないかと思いました。

日本のメーカーとしての存在価値を見いだせた

しかしひとくくりにアテンドの方々といっても、当然性別や年齢、好みに生活環境もバラバラ。いくつかのタオルを持ち帰ってもらって最低10回は洗濯をしながら使ってもらいましたが、その意見をどのようにまとめるかが課題でした。

感性の鋭いアテンドの方々は、数値化すると同じ吸水性を持つ商品でも「肌から水を吸い取られる感覚が違う」と言いました。また、商品へのフィードバックは「ほっとする」「あたたかい」「ふんわりしている」など具体的な言葉ではなく感覚でのコメントが多かったのです。アテンドの方からの評価で印象的だったのが「包み込まれているようでお姫様気分になれる」というコメントです。

タオルは本来、水をふくものです。海外から安い商品がたくさん輸入され、日本のメーカーも随分と減りました。単に水をふくだけなら、輸入品で良いのかもしれません。
しかし日本で、今治で、我々がタオルをつくる意味は単純な機能だけでなく、ほっとしてもらったり疲れが取れたり、そんなプラスアルファの商品がつくれること。これが我々の存在価値なのだと、アテンドの方々の意見から気づかされましたね。

Q. 3種類開発したのはなぜですか?
当社は究極の1種類をつくろうと考えていました。しかし、前述したように個性や使いたいシーンがそれぞれある。また洗濯の環境も、乾燥機を使う場合や日当たりによって差も出ます。実生活の中でテイスティングしてもらい踏み込んで検討した結果、用途・好み・生活環境などを考慮し、3種類に決定しました。


既成概念にある「売れるタオル」と真逆の商品が完成


タオル地が決まったところでデザインに着手。通常、お客様は色やデザインで選びますから真っ白のタオルを販売することは大変難しいんです。そこで、ロゴを刺繍で入れようと試作品をつくったのですが、アテンドからは不評。その部分だけ固く肌触りが不快になるというのです。また、タオルのタグは法律上とりつけないと販売ができないのですが、肌触りを邪魔しない程度に、タオルの端の部分に関してもなるべく細くしてほしいなどの要望もありました。その要望をかなえていくと通常のタオルより手間がかかるため制作コストはあがり、一方で出来上がりは今までの常識である「売れるタオル」とは真逆の真っ白いシンプルなタオルに。
正直、これで売れるのだろうか……という不安はありました。


日本の製造業としてのプライドとその価値を認識


Q. 結果として伊勢丹新宿店でベストセラー、また2008年グッドデザイン賞となりましたが、田中様ご自身はこの商品の価値をどのようにとらえていらっしゃいますか?

2008年に販売を始めてから、爆発的に毎月何万枚も売れているわけではありませんが、リピーターや紹介などが多く、コンスタントに売り上げは伸びています。それはモノの良さだけではなく、視覚障がい者との共同開発、またダイアログ・イン・ザ・ダーク自体の話題性なども要素としてあります。
商品に自信があるだけにモノの良さだけで勝負したいという思いもありますが、その話題性が宣伝になっているのも事実。ネームバリューとしての価値ももちろんあります。
しかしお客様も話題性があっても品質が悪ければ買わないでしょう。よいモノだからリピートし、人に紹介してくださるのだと思います。私自身、とても気に入って使っていますしね(笑)。話題性に負けない高い商品力、価値はあると思っています。
また、この開発のノウハウはそれ以外の商品にも活かされています。
この開発により、今まで何十年と積み重ねてきた技術を整理整頓することができました。今回は全く新しい製造方法を生み出したのではありません。行程整理をしたうえで、今までの技術を組み合わせて新しいモノを生み出したのです。
日本の製造業は大量生産化により創作意欲を忘れてしまっているといわれています。それはひらめきだけではなくて、過去の技術を見直す力も同じです。見直すことで新たな開発に活かすことができるのに、その力が日本のモノづくりの現場全体でなくなってきています。その時流のなかで、ダイアログ・イン・ザ・ダーク・タオルの開発によって、技術を見直し整理整頓できたことは、当社にとって今後の商品開発にも非常に価値のあることだと思っています。

「ダイアログ・イン・ザ・ダーク タオル」オンラインショップ