Case Studies事例

つくば市立春日中学校 「立志“中期卒業”式」

つくば市内初の小中一貫校として開校したばかりのつくば市立春日小学校・中学校。“ひやまっち”ことアテンドスタッフの檜山が、7年生(中1生)の「立志“中期卒業”式」に講師の1人として招かれ、講演を行いました。同校では「4・3・2(年)制」を取り入れているため、7年生は2つめの区切り「立志」を迎えます。


コミュニケーションにはさまざまな方法がある

ひやまっちは開口一番、生徒のみなさんに、こんなお願いをします。
 「僕は目が見えないんですね。だから、紙をカシャカシャする音がいっぱい聞こえるのはわかるのですが、目の前に人が本当にいるのかわかりません。なので、みなさん協力してください。目をつぶってもらって、拍手するように手を叩いてもらえますか? ……ありがとうございます! 向こうのほうまでいっぱい人がいることがわかります」

 最初はちょっと緊張していた生徒さんたちも、手を叩くことで表情もほころび、話に興味津々な様子です。ひやまっちはその後、男性、女性、年代別にも拍手してもらうことで、生徒さんだけでなく先生や保護者が参加されていることなど、会場にどんな人達が集まっているのかを理解していきます。
 「見えなくても、ほかの方法を使うことで、どんな人達がいるのかなということを、僕にもわかる状態にすることができます」

 そしてひやまっちは、学生時代はつくば市内の寮に住んでいたこと、大学ではコンピュータを学んでいたことなど、自らのルーツを話します。
 「ちょっと難しい話になりますが、ちょうど学生のころに、文字を打ち込んでコンピュータを制御するシステムから、今ではおなじみのアイコンをクリックする仕組みに変わりました。そのことで、僕達のように目が見えない人たちは、コンピュータを一切使えなくなったんです。卒業時も、音声読み上げなどまだ十分使える環境ではなかったので、コンピュータ技術者としてちゃんと就職することができませんでした」

 そんな時、友人からの紹介で、ダイアログ・イン・ザ・ダーク(以下DID)と出会ったというひやまっち。
 「DIDは、暗闇のソーシャルエンターテインメントと呼んでいます。“ソーシャル”は“社会的な”という意味で、エンターテインメントとして楽しいひとときを過ごしてもらうのが、僕達が今やっている仕事です。DIDの暗闇は、1〜2時間そこにいても目が慣れることはない、見えるようにならない真っ暗闇です。そこに8人くらいでチームを組んで入っていく。暗闇なので、声を掛け合わないと進んでいけません。そこを案内するのが、僕達です。この教室にいても、DIDの暗闇にいても、目で見ているわけではないので環境は変わらない。それで、暗闇を案内するという仕事をしています。この仕事についているのは、日本で20人くらいしかいません。いずれも視覚障害者といわれる人たちです」

 見えるを想像し、伝えることを楽しむ


 「僕は生まれてから今まで、目が見える経験をしたことがありません。目が見えるというのはどういうことかなと、常に想像していますし、『どういう風に見えているの?』と見える人にどんどん質問するようにしています。僕はスポーツが大好きで、テレビやラジオで観戦したり、年に何回かは野球場にも行きます。たとえば、ボールがバットに当たる音って、フライとかゴロで全然違うんですね。僕が『これ、どんづまりだね』と言ったりすると、見える人たちがびっくりしたりします。こんな風に『音でもわかるんだよ』ということを、どんどん伝えていくことを楽しむようにもしています」

物事を逆から考えてみる

 そして最後に、ひやまっちが持参したトランプを、生徒さんが触れられるようにそれぞれ回していきます。
 「それは、点字トランプです。点字を裏側からプレスしています。だから、裏側を見ると、ちっちゃく凹んでいますよね。点字は本来、出っ張っている方を読んでいます。でも僕は、片方が凹んでいるんだから、凹んでいるほうも読んでみたらいいんじゃないのと指で触っていたら、読めるようになりました。実は、この点字トランプを使うと、僕は神経衰弱で無敵なんです(笑)」

 ここで、ランダムに選ばれた裏向きのカードに触れて、見事にカードを読み当てる“技”を披露! 生徒さんたちも拍手とともに「おぉっ」という声で反応を伝えてくれています。
 「いつもの方法が当たり前じゃなく、逆から考えるとどうなのかなということもいろいろ試していくと、人と違ったオリジナリティーが出てくるかもしれません。みなさんにもぜひ、そんなことを心に留めてもらえると嬉しいなと思います。今日はありがとうございました」