Case Studies事例

社会福祉法人一心会 特別養護老人ホーム「ふるさとの杜」

社会福祉法人 一心会 特別養護老人ホーム「ふるさとの杜」

中村正明 様
古本洋 様
清水新 様
佐橋美貴子 様

リレーショナル・エデュテイメント

利用:職員研修
テーマ:自分が入りたいと思う施設

「深い対話」を重視したプログラム「リレーショナル・エデュテイメント」をご利用いただいた一心会のみなさま。特別養護老人ホーム「ふるさとの杜」開設に向けて、入職されて1カ月弱の全職員のみなさま、6グループに分けてご参加いただきました。

声のトーンで笑顔をつくる

今回、どのような経緯でDIDを研修にご導入いただいたのですか?

古本様(以下、敬称略)「2014年の9月頃、テレビでDIDが取り上げられているのを観て、これだ!と思いました。職員研修でありきたりのことはやめようと思っていたので、清水に『ちょっと調べてくれ』と。」

清水様(以下、敬称略)「問い合わせると体験会があることがわかり、私を含め3名で伺いました。名前も顔もよく知らない方たちと暗闇でミッションをこなすことにより深い関係性になることがわかったんです」

古本「互いに一歩離れたところで仕事をしていた3人でしたが、体験会から帰ってくると、ちょうど心地いい距離に縮まり、話ができる関係に変わっていたのです。それで、私も体験させていただくことにしたのですが、実は私、閉所恐怖症だったんです。でも暗闇の中で、アテンドに『もう諦めましょう』と言われ、諦めてみたら、大丈夫だったんです。メンバーは積極的な方が多く、何かと言葉をかけていただき、それが嬉しくて、そうか互いに声をかければいいんだと気づきました。そして普段『笑顔、笑顔』と言っている自分は、暗闇では声のトーンで笑顔をつくり、優しく話すようにしました。これが上っ面だけだと相手には絶対わかってしまうのが暗闇なのですね。これはぜひみんなに体験させたいと思いました。」

入職時の思いを再確認し、 その思いを語り合うことで仲間意識を醸成

実際に皆様で体験してみて、いかがでしたか?

佐橋様(以下、敬称略)「今でもはっきり覚えています。 私達のグループは、まだ知り合って3日目くらいの時だったんです。だから行きはぎこちなくて、でも暗闇から出てきたら、とてもほんわかな雰囲気だったんです。」

中村様(以下、敬称略)「プログラムの中に、2チームに分かれ、あるものを完成させるというミッションがありました。うちのチームは4人で役割を決めて、すぐ作ることができたのです。けれどもう1つのチームは役割分担を決めず、みんなであーだこーだ話し合いながら作っていて、結果的に時間内には完成しませんでした。このミッションでは、どちらが良かったのだろうとふと思ったんです。役割分担を決めたほうが確かにスムーズに仕事は進みます。でも、うちの施設はトップダウンではなくみんなで決めていくと施設長が日頃からおっしゃっていることを考えれば、みんなでワイワイガヤガヤ、悩んだり衝突したりぶつかったりしたほうがいいのでは?と思いました。
 そう考えるとこの研修は、『組織の一員になる』ことを考慮した上でのものだろうと思えます。また暗闇では、声を出すとか触れてみるとか、コミュニケーションが必要となります。介護職の人は、ご利用者様とのコミュニケーションはスムーズに取れるのですが、同じ組織内のコミュニケーションは苦手な人が多く、そこを克服するための研修になったのかなと感じました」

佐橋「さきほど中村さんが話していた暗闇の中でのミッション、うちのチームの取り組みは早く、必然的に役割分担が出来ました。完成形が頭の中で想像できていたから作れたと思っています。それをこの施設に置き換えて考えれば、みんな、あれやこれをやってみたい、というイメージをもって集まって来ている。そのイメージがあってこその今だということを、ミッションをやりながら感じました。これまで勤めていたところで『ダメ』と言われてきたことが、この施設だったらできるとなると、それだけでやり甲斐がありますよね。それぞれがやりたいことを、ここで目指すという思いをずっと持ち続け、忘れないでいてほしい。ここに入職したときに思っていたことが、暗闇研修で再確認できたかなと感じています」

やりたいことはみんな個々にある。それを暗闇で伝え合うことができた

中村「そうですね。私は、前の職場では仕事が大変で、食事、入浴、排泄という最低限のことしかできなかった。スタッフはいつもバタバタと動いていて、何のために仕事をしているんだろうと悩んでいました。でもここは、外の景色を見て、おいしいお茶とかコーヒーを飲んでもらって、ゆっくりくつろげる場にしていきたい。夢は2020年までに、ご入居者のみなさんをスカイツリーにお連れして、東京オリンピックの会場でも回れたらいいな。そんな話をしました」

佐橋「私は『親孝行プロジェクト』をやりたい。ご入居されている方のご家族が罪悪感を持たれていたり、ご入居者ご本人も家族に迷惑をかけたくないと思っている方はけっこういらっしゃいます。そういった気持ちをなるべく和らげてあげたい。親孝行できるようなことを1つでも実現させてあげたい。それをここの伝統にしていきたいと思っています。やりたいことはみんな個々にある。それを暗闇で本音で伝え合うことが出来ました」

『お互いさま』という気持ちを忘れないこと

佐橋「振り返りの時に、『あの時(暗闇)は素で話が出来たのに、明るいところに出てきたら言えなくなっちゃった』と言い出す人が何人かいました。あの時言えて今言えないのは、見えているから。でも本当は伝えられるということが暗闇でわかったし、聞く耳を持つようにもなりました。だから、気持ちを伝えにくくなった時は目をつぶって、暗闇にいた時に戻ろう、と。また、暗闇の中では支え合わなければならない。それは施設も同じで、職員同士が支え合っていかないとダメだと思うんです。日常生活でも仕事でも、『お互いさま』という気持ちを忘れず、それがいい連鎖につながっていくはず。そうしたことが研修を通して経験出来たことで、ひとつの種を蒔いてもらったというか、きっかけになったと思います」

こちらも勇気をいただくようなお話をありがとうございます。6チームすべての研修が終わってから、総括の時間などはもたれたのですか?

清水「今回の研修に参加したことについてと今後の抱負を自由に話してください、という時間をとりました。グループ分けはくじ引きで偶然の関わりだったのですが、グループメンバー間の距離感があまりにも近くなっていたので、全体の時間もとりました」

古本「暗闇でも、目を開いているときでも、互いがちょうどいい距離を見つけられたのでしょう。この研修で気づいたこと、それが思いやりであれば、3日で忘れるようなことはない。これはついこの前、実際にあった話ですが、ご利用者の方が食べ物を喉に詰まらせ、ほぼ窒息に近い状態になったときも、全員がぱっと動いて連携できました。介護の技術的な研修も行っていますが、いざというとき、みんなが能力を発揮してくれたことは、研修の成果だと思いたいですね」

中村「ぜひ、もう1回参加したいです。同じメンバーでもまた違うと思います!」

佐橋「本音を聞けた仲間だから、その後の変化を見てみたいと思いますね。研修の最後に、『その人の良かったことを書いてください』と寄せ書きをしたのですが、嬉しかったです。悪いことはもちろん、いいことも、面と向かって言うことはあまりないですよね。良いことだけをカードとして残してもらえて、自信にもなるし、再認識できる。嬉しい振り返りでした」

古本「新たに仲間に加わり、まだ研修を受けていない職員が数人います。この前と同じことをすべて網羅できなかったとしても、やはり全員に体験させたいと思っています」

(2015年4月取材)


<ご参加者の感想>

  • 「つい先程まで、ぎこちない会話だったのが、お互い心を開いて話をすることが出来、暗闇から出て会話をした時に、初めて、私の目を見て話をしてくれたことが、一番うれしくてビックリしました。振り返りでも、みんなが何を感じて、これからどんな風に共に働いていきたいかを聞くことができ、どんなことがあっても前を向いて進んでいける仲間だと思いました」
  • 「人が不安に思っている時に、声かけやスキンシップで安心できることがよくわかりました。入居者さんにとって頼りがいのある存在と思っていただけるような人でありたいです」
  • 「同じグループの方々の優しさや温かさ、個人個人のいいところが感じられ、心の距離が縮まった気がして嬉しい気持ちです」
  • 「人として大切なこと、なくしてはいけないことを、思い出させていただいたように思います。ふるさとの杜の理事長がなぜ、このような研修導入を考えたのか、自らがよく考え、これからの仕事に役立てたいと思います」